卓話

「改正相続法について」
会員卓話 担当 茂木立 仁会員
相続法改正のポイント
相続法が大幅改正され、順次施行されています。
親や親族が亡くなる場合もあり、相続は身近な問題です。
相続法の改正のポイントは8個あり、わかりやすく説明します。
「改正ポイント1」 配偶者居住権の保護
「改正ポイント2」 特別受益の持戻し免除の意思表示の推定
「改正ポイント3」 預貯金の仮払い制度
「改正ポイント4」 自筆証書遺言の方式の緩和
「改正ポイント5」 自筆証書遺言の自己保管が不要
「改正ポイント6」 遺留分制度の見直し
「改正ポイント7」 相続の効力等に関する見直し
「改正ポイント8」 相続人以外の者の貢献を考慮
各ポイントについて説明します。
「改正ポイント1 配偶者居住権の保護」について
相続が開始し、被相続人が所有している不動産も他の財産と同様に相続人間で配分していましたが、不動産が売却されるなどし、配偶者が居住先をなくすという問題が指摘されていました。
今回の改正により、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」という2つの権利が新設され、配偶者の居住を守ることができるようになりました。
不動者の所有権は別の相続人に移るものの、配偶者は「配偶者居住権」で引き続き生涯無償で家に住むことができ、不動産を所有した相続人は、負担付き所有権を相続することとなります。
ただし、この配偶者居住権は遺産分割協議、遺贈、審判などで認められる必要があり、不動産に関する権利として登記することもできます。
「配偶者短期居住権」とは配偶者は相続開始から6か月間は無償で居住することができ、その間の居住権が保護される権利のことです。
「配偶者居住権」及び「配偶者短期居住権」は2020年4月1日施行です。
「改正ポイント2 特別受益の持戻し免除の意思表示の推定」について
被相続人が生前に特定の人物(相続開始時に相続人となる人物)にだけ偏った贈与(例えば、相続人の1人だけ大学入学資金や教育資金を援助するなど)していた場合、相続開始時に生前贈与分は特別受益とみなされ、相続財産に持戻して計算されていました。
「特別受益の持戻し免除の意思表示」とは、被相続人から遺言等で「特別受益の持戻し計算はしなくていい」との意思表示があれば、遺産分割時に持ち戻し計算をする必要がなくなるという規定です。
結果、生前贈与を受けていた相続人としては、多くの相続財産を受け取れることになります。
例えば、被相続人が居住用の不動産を妻に生前贈与していた場合に持戻し免除の意思表示をしていないと相続発生時に不動産を特別受益として計算されるため、妻の相続できる財産が少なくなってしまいます。
配偶者保護のため、改正法では次のように見直されることになりました。
特別受益の持ち戻しを免除するためには被相続人の意思表示が必要ですが、一定の要件を満たした配偶者相続人については、持戻し免除の意思表示があったと推定され、配偶者相続人が保護されることになりました。
免除の意思表示推定のための要件として
1.婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が、他方に対し、
2.居住用の建物やその敷地を贈与(遺贈)した場合には、
3.持ち戻し免除の意思表示があったものと推定される
これらの要件を満たせば、夫婦間で居住用不動産を贈与した場合、遺言等で意思表示しなくても持戻し計算の免除を免除されることとなり、配偶者相続人に有利な遺産の承継の実現が可能となりました。
施行日は2019年7月1日です。
「改正ポイント3 預貯金の仮払い制度」について
相続開始と同時に預貯金口座が凍結され、引き出しができなくなります。
葬儀費用や病院・施設への支払いにおいて、被相続人の預貯金が使用できず困るケースが考えられます。
相続人間で遺産分割協議が速やかに行われる場合は問題ありませんが、相続トラブルなどがある場合は支払いが滞るなど問題視されてきました。
「預貯金の仮払い制度」により、遺産分割協議前でも家庭裁判所の関与がなくとも、単独で一定額の預貯金の引き出しができるようになりました。
各相続人が引き出せる一定額の算出方法は
相続開始時の預貯金額×3分の1×共同相続人の法定相続分となります。
施行日は2019年7月1日です。
「改正ポイント4 自筆証書遺言の方式の緩和」について
自筆証書遺言は従来においては「全文の自署」が必須条件となっていました。
改正により、遺言書本文は自署が必要ですが、財産目録は自署でなくても可能となりました。
例えば、
財産目録(遺産の明細)をパソコンで作成する
不動産の登記事項証明書の添付でも構わない
預貯金の通帳の口座番号等が記載さいれているもののコピーでも構わない
となりましたが、それぞれに自署と捺印は必要となります。
財産目録の作成が緩和され、自筆証書遺言の作成労力が軽減されることになりました。
施行日は2019年1月13日です。
「改正ポイント5 自筆証書遺言の自己保管が不要」について
自筆証書遺言書は自宅で保管しなくてはならず、滅失や紛失、又は隠匿や改ざんの恐れがありました。
その上、自筆証書遺言書は相続開始時に家庭裁判所で確かに被相続人が書いたものであるという検認の手続きを取らなくてはなりませんでした。
検認手続きは、申立書や必要書類の準備、家庭裁判所への出廷などが必要で、手続きにも時間を要すためなかなか相続手続きが進まない等の問題がありました。
今回の改正により、自筆証書遺言書を法務局で保管してもらうことができるようになりました。
生前に作成し、法務局で保管してもらうため紛失や改ざん等のリスクもないばかりか、家庭裁判所でも検認手続きが不要となりました。
法務局への持ち込みは遺言者本人が行ない、その場で本人確認も行われます。
閲覧も内容変更も本人の申し出により、本人出頭で行うことができます。
相続人や遺言書に受遺者と記載された者またはその相続人、遺言書で遺言執行者として指定された者は、相続が開始した時から遺言書に関する情報がまとめられた「遺言書情報証明書」の交付を請求することができます。
施行日は2020年7月10日です。
自筆証書遺言の方式の緩和と保管制度の創設にタイムラグがあるのでご注意ください。
「改正ポイント6 遺留分制度の見直し」について
改正により大きく2点が変わりました。
1つめに、遺留分請求権が目的物の返還請求権から金銭の支払請求権となったこと。
2つめに、遺留分の算定方法が明確化されたことです。
遺留分とは一定の範囲の法定相続人に最低限保証された遺産に対する権利のことです。
例えば、兄弟3人が相続人とする遺言書で不動産・会社の株・預貯金のうち会社の株は全て長男に相続させると指定されていた場合、二男三男は法律で決められた遺留分相当額まで長男に請求する権利を行使することができます。
この権利行使を遺留分減殺請求といい、改正前までの相続法ではこの権利行使は目的物の返還請求とされていたため、長男(受益者)は会社の株式を返還し、二男三男(遺留分権利者)を含む3兄弟で共有状態となり事業継承が円滑に行われないという事態が発生していました。
改正により、二男三男(遺留分権利者)の遺留分減殺請求権は守られ、長男(受益者)も返還しなくてはなりませんが、目的物である株式自体を返還する必要はなく、金銭の支払いとなり、目的物が共有されるという問題が解決されました。
請求権の内容変更に伴い、遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へと変更されました。
遺留分の算定方法ですが、従来の法続報では、相続人が被相続人から生前に受けた贈与などの特別受益は何十年前のものでも遺留分額の算定に含めて計算されていました。
改正により、「相続開始前10年間にしたものに限る」と変更になりました。
遺留分については、過去の特別受益をどこまで遺留分の算定に含めるかが争点となることが多かったため、10年と区切ることで遺留分侵害額の予測がしやすくなり、基準も明確になり早期解決の一因になると考えられています。
「改正ポイント7 相続の効力等に関する見直し」について
相続の効力等に関する見直しについては、大きく2点が挙げられます。
まず1点目は、権利取得の対抗要件の見直し、2点目が相続債権者の立場の明確化です。
権利取得の対抗要件の見直しとは、法定相続分を超える権利を相続した者は、取得に至った原因(遺言、遺産分割協議等)に関わらず、法定相続分を超える部分について、第三者に権利を主張する(対抗)には、登記や登録などの手続きをしなくてはならないということになりました。
例えば、相続人が姉妹の2人で、被相続人が不動産を全て姉に相続させると遺言した場合、妹が遺言書の存在を知っていながら、自分の法定相続分による登記を済ませ売却しても、姉は自分の法定相続分を超える部分(妹が売却した持分2分の1)について第三者に権利取得を対抗できません。
妹が登記する前に先に登記を済ませないと妹が売却しても何も対抗できないということになります。
相続債権者の立場の明確化についてですが、被相続人が負債を抱えて亡くなった場合の負債の返還を請求する権利がある人を相続債権者といいます。
相続債権者は、相続分の指定がされた場合でも相続指定分に縛られることなく、各相続人に法定相続分に応じて請求できると明文化されました。
ただし、相続債権者が指定された相続分に応じた債務(負債)の承継を承認した場合はこの限りではありません。
例えば、妻子の2人を相続人として預貯金と300万円の負債を残して被相続人が死亡し、妻に1、子に2の分配だった場合、相続債権者は指定相続分として妻に100万円、子に200万円を請求することができ、または法定相続分として妻に150万円、子に150万円を請求することもできるのです。
債権者が法定相続分と指定相続分のどちらに沿って請求するのかを選択することができるのです。
施行は2019年7月1日です。
「改正ポイント8 相続人以外の者の貢献を考慮」について
従来の相続法でも寄与分制度がありました。
寄与分とは、被相続人の生前にその財産の維持や増加に貢献した相続人がいた場合、他の相続人との間の不公平を是正するために設けられた制度です。
ただし寄与分を主張できるのは相続人に限られていました。
例えば、長男の妻が長男の父(義父)を介護している場合、長男の妻は相続人ではないため寄与分を主張できず、療養看護等の貢献を相続分に反映させる仕組みがないため、相続分配が不公平となるケースもありました。
改正相続法では、被相続人の相続人以外の親族が、無償で療養看護等をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加があった場合、相続人に対して「特別寄与料」として金銭の支払いを請求することができるようになりました。
施行は2019年7月1日です。